堆積・古環境学研究室
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堆積・古環境学研究室
新潟大学 理学部 地質科学プログラム/大学院 自然科学研究科 環境科学専攻 地球科学コース

中期中新世(約900~1,200万年前)の古土壌(茶褐色の地層)。当時、季節的な多雨があったことを物語る(瀬戸層群土岐口陶土層、愛知県豊田市;葉田野ほか, 2021, 地質学雑 誌, 127, 345-362)

諏訪湖の湖底に沈んだ後期旧石器時代~縄文時代の遺跡において、堆積物コアを採取。古環境(湖の水位変動など)を復元する。撮影: 長谷川直子(お茶の水女子大学)。

古琵琶湖層群吉永互層、滋賀県野洲川河床

中期中新世(約900~1,200万年前)の古土壌(茶褐色の地層)。当時、季節的な多雨があったことを物語る(瀬戸層群土岐口陶土層、愛知県豊田市;葉田野ほか, 2021, 地 質学雑誌, 127, 345-362)
地層から探る地球表層環境の変動
地層・堆積物・古土壌を用いて、
地球表層環境と気候変動・地殻変動の相互進化を明らかにする研究を行っています。

研究紹介
当研究室では、東アジア沿岸域を主なフィールドとして、地層や堆積物(堆積岩)、古土壌に刻まれた情報から、過去の環境変動を復元する研究を行っています。
気候変動や地殻変動といった地球システムの主要なプロセスが、土壌・植生・湖や河川の堆積環境・風化・侵食過程・生物や人間の活動に与えた影響を解明することを目指しています。
専門分野
地質学・堆積学・堆積岩岩石学・古土壌学
研究手法
フィールドワーク
野外において、地層の特徴、粒子のサイズや配列、生痕化石・根化石・古土壌を観察・スケッチ・記載し、堆積相や古土壌相を解析することで、地層の成り立ちを復元します。併せて、堆積物などの室内分析用試料を採取します。堆積物コアの掘削を行ったり、現生土壌の調査を行うこともあります。
室内作業・分析
堆積物や古土壌に含まれる鉱物の種類、主要元素、微量元素、希土類元素の分析、顕微鏡による微細組織の観察・記載、粒度分析や粒子形状の解析、有機物(全有機炭素・全窒素)分析などを行います。
フィールドと室内で得た結果を併せて、堆積環境、後背地、古風化度、植生や土壌、湖沼中の生物生産性などを読み解きます。

河川で形成された地層。砂や礫などの砕屑物が運搬・堆積する過程で、水流の速度や方向、地形に応じて多様な堆積構造が発達します。これら地層がもつさまざまな特徴を記載することで、堆積環境や水流の特徴などを推定します。
主な研究テーマ
1. 古土壌に基づく陸域古環境変動の復元
古土壌とは?
過去の陸域環境の指標として、特に注目しているのが、「古土壌(paleosol)」です。古土壌とは、かつて地表で形成された土壌が、その後に埋没して地層中に保存されたものです。古土壌には、当時の気候・地形・風化時間・生物活動・人間活動など、地球表層環境の情報が記録されています。
堆積学的視点からは、主に堆積物の輸送・堆積過程を読み取ることが可能ですが、それだけだと非堆積性の時間間隙における陸上古環境をとらえることはできません。古土壌学的視点から地層を観察することで、堆積が行われなかった時間(不整合)における風化・土壌化のプロセス、陸上古環境がみえてきます。

現在の土壌の情報を過去にも適用
現在、世界各地にはさまざまな性質をもつ土壌が分布しています。これら現世土壌が、気候・地形・生物・地質などの環境要因により決定されるように、古土壌もそれら条件を反映しています。したがって古土壌は、過去の気候や地形を復元し、陸域環境の変動を探る上で、有用な指標となります。
地層に保存された古土壌と根の痕跡。数百万年前の土壌が保存されており、当時の気候や植生が記録されています。
現在の研究テーマ
古土壌を指標として、現在、以下の研究課題に取り組んでいます:
・東アジア・モンスーンの初期進化と変遷
・地質時代の温暖期における地表環境
・第四紀の氷期―間氷期サイクルに伴う地表環境変動
2. 湖沼堆積物に基づく第四紀の環境変動の復元
第四紀の気候激変期
第四紀は、現在を含む過去258万年間の時代で、氷期と間氷期が交互に繰り返される気候変動によって特徴づけられます。特に、最終氷期末(約2万年前)までの期間には、短期間で温暖化と寒冷化が激しく交替する不安定な気候が続いていました。
中部山岳域の古環境変動を探る
当研究室では、日本列島の中部山岳域を対象に、湖沼堆積物を掘削し、これを詳しく調べることで、第四紀における気候変動が土壌・植生・湖沼環境・生物・人間活動に与えた影響を明らかにする研究を行っています。
諏訪湖とその流域の環境変遷に注目
なかでも特に注目しているのが、諏訪湖とその流域における最終氷期末(約2万年前)以降の古環境変動です。
諏訪湖は、中部日本の高標高域に位置する内陸湖であり、その流域には八ヶ岳山麓や赤石山脈、霧ヶ峰高原などの山岳・高原地帯が広がっています。これらの地域は、気候変動に対して敏感に応答するとされ、諏訪盆地に堆積した地層にはその痕跡が刻まれています。
生態系や人間活動への影響にも注目
自然環境の変化が陸上や湖沼の生物活動、人間の活動にどのような影響を及ぼしてきたのかという視点にも注目しています。
こうした課題に取り組むために、現在は様々な分野の研究者と協力しながら研究を進めています。
過去の環境変動を明らかにすることは、現在の環境の成り立ちとその背景を理解する上で有用であるだけでなく、将来の地球環境の変化を予測するための基礎データにもなると期待しています。

諏訪盆地で掘削された堆積物コアの断面。約2万年間(最終氷期末以降)の諏訪湖とその流域の古環境が記録されています。

(左)湖で堆積した泥層とイベントによる砂層。生痕化石を含む。(右)氾濫原で形成された古土壌。根化石が認められる。白色バーの長さは1cm。
諏訪盆地では過去2万年間に大きな堆積環境の変化があったことを物語っています。
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